こんにちは。今回は放射性壊変についてです。α線、β線、γ線が出てきます。
まず、放射性壊変とは、放射性同位元素が自発的に放射線を放出して別の核種になることをいいます。
α線、β線、γ線の発見は、1898年頃になります。ラザフォードさんが天然の放射性物質から性質の異なる2種類の放射線が出ていることを発見しました。
磁場により曲がりにくいもの、曲がりやすいものと異なり、それをα線とβ線と名付けました。
1900年にX線に似た透過性の強く、磁場により曲がらない放射線を発見され、ラザフォードさんによってγ線と名付けられました。
それでは、それぞれ詳しく見ていきましょう。この章は、結構ボリュームがありますのでPart1、Part2と分けて講義します。
不安定な原子核は安定しようと、崩壊を起こして安定な原子核になろうとします。その際に放射線を放出します。
3種類の崩壊があり、α崩壊によって放出される放射線がα線、β崩壊ではβ線、γ崩壊ではγ線が放出されます。
崩壊による、原子番号と質量数の変化を確認しましょう。
崩壊のことを壊変といいます。壊変前の原子核を親核、壊変後の原子核を娘核といいます。
α壊変についてです。
α壊変は、質量数の大きな原子核がヘリウムの原子核を放出する壊変です。α線の正体はヘリウム原子核が速く飛んでいるものです。
α壊変では、ヘリウム原子核が放出されることより、壊変の後の娘核は質量数が4減り、原子番号は2減ります。
α壊変核種として、有名なものとして、223Raがあります。これはキュリー夫人によって発見されたもので、本当は健康に良くないけど、昔は健康に良いとして、ラジウム歯磨き粉とかラジウムクリームみたいなのが売られてたんですよね。科学的な根拠なんてなかったのに笑笑
α粒子は、どのように放出されるかというと、量子力学のトンネル効果によりクーロン障壁を抜けて放出されます。
量子力学のトンネル効果によりクーロン障壁を抜けて放出されます とさっき説明しましたが、よくわかってない方が多いんじゃないでしょうか。
参考書等にも同じような説明がたくさん使われています。
ここでは、それについて簡単に説明したいと思います。
磁石を想像してください、磁石の同じ極同士を近づけようと頑張ってみてください。思いっきり近づけても反発力(斥力)ではじかれてしまいます。
これは、同じ電荷の陽子同士も同じです。同じ電荷同士のクーロン力による反発力(斥力)ではじかれます。
クーロン力によってそれ以上近づけられない(壁みたいなので近づくことができない)ことからクーロンエネルギー障壁と呼びます。
この図を見てください。横軸に距離、縦軸にエネルギーを表しています。ゆっくり説明していきます。
また、同じ極同士の磁石を考えてください。磁石を手で持って近づけてみましょう。
距離が遠いときは、反発力は感じませんよね。徐々に一定の力加減で近づけていくとどんどんどんどん反発力が強く感じるようになります。そしてある距離まで行くと、さっきまでと同じ力では近づけないと思います。それが、グラフの一番右からクーロン障壁のところまでです。
そして今度は、磁石も同じ極同士でもより強い力加えれれば、くっつけられますよね。でも、磁石は力を緩めたら反発しますね。
しかし、陽子では、より強い力(=クーロン障壁を超えるエネルギー)で近づかせることができます。
そして、今度は核半径までの距離まで行くと、強い引力が加わります。図ではマイナスのエネルギーになっているのは、反発力(斥力)がプラスのエネルギーであり、引力は反発力とは反対の向きのエネルギーなのでマイナスになります。
クーロン障壁を越えるエネルギーがないと核同士は近づくことができないと言うことです。
さっきは遠いところから近づけましたが、α線を放出するということは、原子核から放出されますので、さっきとは逆の動きをしないといけません。そのため、原子核から飛び出るためには、クーロン障壁を越えるエネルギーが必要!!なんですが!!
放出されたα線のエネルギーは、クーロン障壁のエネルギーよりも小さいエネルギーのものが多かったのです。
古典物理学ではそんなことはあり得なかったのですが、量子力学ではそれを説明できたのです。
よってα粒子のこの動きは、壁をすり抜けてるように、壁に穴を空けて通ったように、トンネルを通ってるように、「量子力学のトンネル効果によってクーロン障壁を通り抜ける」ということで説明されました。
長くなりましたが、なんとなく、難しい説明の仕方がわかったのではないでしょうか。
ここで、α壊変に伴う壊変エネルギーを求めてみましょう。壊変のエネルギーは壊変前後の原子の静止質量の差で決まります。その質量差をエネルギーで表したものです。
この壊変エネルギーEの値をQ値と言います。
壊変エネルギーは壊変後の娘核とα粒子に分配されます。娘核が壊変しても基底状態にならず、励起状態になる場合もあります。
娘核が励起状態の場合、α粒子のエネルギーはE以下になります。娘核が基底状態になる場合のα粒子のエネルギーは運動量とエネルギー保存則より、黒板にあるように与えられます。
以上の事より、α粒子のエネルギーは親核種と娘核種の質量差で決まるので線スペクトルになります。
β壊変についてです。Β壊変は中性子もしくは陽子のどちらかの過剰のために不安定になっている核種が、電子もしくは、陽電子を放出して安定な核種に壊変します。
βー、β+、電子捕獲の3種類があります。
β壊変の前後は陽子と中性子の数は変わるが、質量数は変化しません。
3種類について見ていきましょう。
βー壊変は、中性子の数が多い原子核で起こりやすいです。
原子核の内部では、中性子が陽子に変わり、その際に電子と反ニュートリノを放出します。βー壊変で、放出される電子のことをβー線といいます。
壊変の例としては、32Pを示します。
質量数は変化せず、原子番号が1大きくなる反応です。 中性子は陽子より質量がわずかに大きいので、単独の中性子はβー壊変で陽子に変わります。
β+壊変は、陽子の数が多い原子核で起こりやすいです。
原子核の内部では、陽子が中性子に変わり、その際に陽電子とニュートリノを放出します。β+壊変で放出される陽電子の事をβ+線と言います。
壊変の例として22Naを示します
質量数は変化せず、原子番号が1減少する反応です。陽子の質量は中性子の質量よりわずかに小さいため、単独の陽子が中性子に壊変することはありません。
ちなみに何ですけど、なんで陽子と中性子が原子核内で変化している現象は理由がわかっていませんが、様々な研究や報告があがっています。
軌道電子捕獲は、electron captureよりEC壊変とも言います。
β+壊変と同じように、陽子の数が多い原子核で起こりやすいです。
反応は、原子核が軌道電子を捕獲し、捕獲された電子と陽子が反応し、中性子となり、その際にニュートリノが放出されます。
壊変の例として40Kを示します。
質量数は変化せず、原子番号が1減少します。
軌道電子が捕獲されたことにより、電子軌道に空席が生まれ、それに伴って特性X線、オージェ電子放出が起こります。そして、β+壊変が起こるときに、β+壊変と、EC壊変は競合します。Β+壊変が起きるときって言うの大事ですね。
どちらが起こるかは、これから説明します。
β壊変のQ値です。α壊変と同じように、壊変前後の質量差で決まります。
Q値を黒板に示したように書けます。この理由を説明します。わかる方は飛ばしてください。
ニュートリノはあまりに小さいので、質量は無視(=0)とすることができます。
β-壊変では、娘核種の原子番号が1増加しますよね。そうすると、壊変した後の原子(娘核種)の中性原子は電子数が1個足りない状態になるのはイメージできますか?
32Pで考えたとき、32Pの原子番号は15、電子数は15ですよね。それがβー壊変すると、原子番号が1増え、32Sになりますね。32Sの中性原子は原子番号が16、電子数が16になります。32Pが32Sになるのに、中性子が陽子に変わっただけで、電子は何も変わってません。そうすると、壊変後の32Sの電子数は15のままなのです。これで、1個足りない状態のイメージわきましたか?
それにより、βー線の電子が原子から放出される前に軌道電子に捕獲されると仮定すると、壊変前後の原子は親も娘も中性原子になり、Q値は壊変前後の中性原子の質量差になるというわけです。
β+壊変も同じく考えていきましょう。娘核の原子番号は1減少しますね。そうすると、本来の中性原子と比べると、今度は電子が1個多くなっていることになりますね。
そして、崩壊によってβ+線の陽電子が放出されます。陽電子は、電子とほぼ同じで電荷が違うだけです。
そうすると、娘核種が中性原子だとすると、壊変によって電子が2個放出されることになりますね。Q値は、壊変前後の中性原子の質量差からさらに2個の電子の質量を引いた値になります。
EC壊変も考えていきましょう。EC壊変で放出されるのはニュートリノのみで、電子とか関係ないので、Q値は、壊変前後の質量差になります。
なんとなくわかったでしょうか。
これはβ線のスペクトルです。壊変エネルギーが娘核種、β線、ニュートリノの3つに分配されます。
放出されるβ線とニュートリノは角度をもって放出されますので、その角度によってエネルギーが異なります。そのため、β線のエネルギー分布は連続スペクトルとなります。
先ほどやったQ値が壊変エネルギーですので、ニュートリノに分配されるエネルギーが0の場合、Q値の値が最大エネルギーとなります。β線のエネルギーとして載ってる値は最大エネルギーが表示されています。
β壊変では、β線とニュートリノが発生しますが、ニュートリノの質量はほぼ0です。
そうすると、β崩壊が起きるためには親と娘の質量差が、電子の質量よりも大きくないといけないことがわかりますね。そうしないと、β線(電子)が放出しませんもんね。
そして、中性原子の質量は原子核+電子の数です。それを、さっきのQ値の式に代入して表してみると…
黒板の白文字の式にあるようになり、それを整理するとオレンジの式になります。
この式から言えることは、
β壊変の発生は壊変前後の質量差で決まるということ
βー 壊変は親原子の質量が娘原子の質量より大きいと起こるということ
β+ 壊変は質量差が電子質量の2倍より大きくないと起こらないということ
以上の事から、途中で放棄してた、β+壊変とEC壊変の競合については解決していますね。
壊変前後の質量差が電子の質量の2倍より小さいと、β+壊変は起きず、EC壊変のみ起こるということになりますね。
以上でPart1は終わります。結構ボリュームありましたね。整理してみてください。お疲れ様でした。
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