こんにちは。今回は荷電粒子と物質の相互作用についてです。
相互作用で起こる反応がものによって変わりますので、何と何の相互作用なのかを分けて、混同しないように注意しましょう。
今回は荷電粒子と物質が衝突して起こる反応についてです。荷電粒子は電荷を持ちます。種類的には、β線(電子線)、α線、重イオン線などがあります。
荷電粒子と物質の相互作用によって起こることは、荷電粒子が物質中を進むとき、物質中の電子とクーロン相互作用によって物質中の原子で電離や励起が起こります。
通常は、電離が起きるだけだが、まれに電離によってできた電子の中に、エネルギーの高い電子が生まれ、その電子が放出され、さらに物質中で電離を起こす電子があります。それをσ(シグマ)線といいます。
さっきはざっくり物質との相互作用といいましたが、その物質が気体についてです。
気体を電離するとイオンと自由電子の対ができます。このイオン対をつくる平均エネルギーをW値といいます。
エネルギーEの荷電粒子が気体中で全エネルギーを失った時に作られるイオン対の数をNとすると、黒板の式にあるようになります。
簡単に言うと、1個の電子イオン対を発生させるエネルギーのことをW値っていいます。
W値は電子や陽子では入射エネルギーによらずほぼ一定の値です。入射粒子の種類の違い(α線vsβ線)でも値はほとんど変わりません(若干の違いはあります…)。
黒板に示したW値の大小関係と、エネルギーの値は試験でよく聞かれますので覚えておきましょう。
なぜ、相互作用相手が空気のときの説明しているのかというと、このW値は放射線の計測で使われるからなのです。計測については別で講義します。
阻止能についてです。
荷電粒子が単位長さあたりに失うエネルギー損失のことを阻止能といいます。式としては黒板にある式で表されています。(この式を覚えて、計算するとかはありません。)
単位はMeV/cmを用いられます。
説明すると、
荷電粒子は物質中を進んでいきますが、無限に進んでいくわけではありません。
物質中で電離をして進んでいきます。物質中の原子を電離させるので、そこで荷電粒子はエネルギーを使うわけです。
エネルギーを使うということは、荷電粒子はエネルギーを失うって事ですね。それを繰り返すことで、最終的にエネルギーを失って荷電粒子は止まります。
荷電粒子である電子が物質に入ってきたとき、電子が失うエネルギー(阻止能)は2つあります。
入射してきた電子と、物質中の原子の電子と反応し電離、励起が起こる衝突阻止能と、入射してきた電子が物質中の原子の原子核の電場により強く曲げられて制動放射を発生させる放射阻止能があります。
衝突阻止能と放射阻止能の和を全阻止能といいます。
阻止能を密度で割った質量阻止能というものがよく使われます。
単純に、さっきまでやってた阻止能を密度で割っただけの値です。
質量阻止能は、質量衝突阻止能と質量放射阻止能の和で表されます。
なぜ、質量阻止能というものが使われるのかというと、物質は水だったり、固体だったり、固体でも柔らかかったり、硬かったり様々なものがあります。それらの物質は、それぞれ密度が異なっています。
密度の事を障害物だと考えてください。密度が大きいと障害物が多いですね。青い四角が障害物です。
密度が小さいと障害物も少なく、白い球は障害物にぶつかりはしますが、スルーっと抜けていくことができます。
しかし、
密度が大きいと障害物も多くなり、白い球は障害物で邪魔され進むのが難しいですね。そして、同じエネルギーで入ってきても障害物でエネルギーを失ってしまい、途中で止まってしまいます。
これは、たとえ話ですが、このように、物質が異なるとそれに伴って密度も異なり、同じエネルギーで入射してきたとしても物質によって阻止能が変わってきてしまいます。
密度で割るということは、「障害物が1個のときのエネルギー損失はどーですか?」っていう話になります。
そうすると、物質によって変わっていた阻止能が、物質に影響されない事になります。それが質量阻止能なのです。
物質によって影響されなくなると、入射してくる粒子同士で比較することができますね。
さっきの説明では図を用いてイメージで説明しましたが、今度は式を使って説明します。
衝突阻止能は電子との相互作用でしたね。ということは、電子の数が多くなるほど衝突しやすくなり相互作用も起こりますね。
Zを原子番号とすると、よって単位体積当たりの電子数はnZとなります。ρは物質の密度、質量数をA、アボガドロ数をNAとすると、nZは、黒板の式にあるように与えられます。
質量阻止能の式に代入してみると、黒板にある式のようになり、Z/Aは元素によらずだいたい0.5だから、質量衝突阻止能は物質にあまりよらないということがわかります。
Z/Aがなぜだいたい0.5になるかというと、Zは原子番号ですね。陽子数ですね。Aは質量数ですね。Aは陽子数と中性子数の合計の数です。陽子と中性子の存在している割合として1対1で存在しています。例えば陽子2個なら、中性子は2個となり、Z/Aは2/4より、0.5になります。
これで、質量阻止能について少しはわかってもらえたら良いです。
線エネルギー付与についてです。LETといいます。
すでに勉強している方は、一度は思ったと思います。「阻止能と線エネルギー付与って同じ事言ってんじゃん!単位も一緒だし!!」
その疑問も一緒に解決しましょう。
線エネルギー付与とは、と調べると、エネルギーをもった粒子あるいは荷電粒子が物質中を通過する際、飛跡にそって単位長さ当たりに失うエネルギー(Weblio辞書より)と書かれています。
見てもらってわかるように、「その説明でも阻止能の説明と同じじゃね??単位も同じだし!失うエネルギーって同じやん!!」
って思いますよね。
言ってることは同じなんです!しかし、目線が違います。どーいうことかというと、阻止能は入射してきた荷電粒子目線で、「自分のエネルギー失ってる~(物質にエネルギーを与えてる)」、
線エネルギー付与は、物質中からの目線です。阻止能の作用を受ける側の目線で、「荷電粒子さんエネルギー失ってるな~(エネルギーもらってる)」という感じで、用語を使い分けています。
線エネルギー付与は、放射線の生体への影響評価に重要であります。
次は飛程についてです。荷電粒子がエネルギーを失い物質中で停止するまでに進んだ距離を飛程といいます。止まるまでの距離です。
飛程はエネルギー損失から求められ、黒板の式のように求められます。
この式も難しく見えますが、言葉で説明するとわかると思います。積分ってことはある所からある所までの合計をさしています。dE/dxはエネルギー損失です。微少距離進むのに微少エネルギー使いますって事です。
それの逆数ですので1/((dE/dx))を簡単にするとdx/dEになりますね。これを言葉にすると、微少エネルギーで微少距離進むって事です。
エネルギーが0になって止まります。そこまでが飛程ですね。
微少エネルギーで進んだ距離を、ある所からある所まで全部足したって事です。飛程は求める問題がありますが、この式を使って求めることはありません。それについてはこの講義以降で説明します。
以上で荷電粒子と物質の相互作用Part1は終わりです。お疲れ様でした。
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