こんにちは。今回から個体レベルの影響の話になります。
本講義は、全身被ばくによる放射線障害です。
個人が被ばくによる確定的影響、確率的影響分けて見ていきましょう。今回は確定的影響についてです。
人が全身もしくは体の広い範囲に約1Gy以上の大量被ばくを短時間に受けた場合に生じる症状のことを急性放射線症といいます。
急性放射線症は、被ばく線量や臓器、組織によって異なった症状になります。
被ばく後の時間経過によって、前駆期、潜伏期、発症期、回復期4つの病期に分類されます。
前駆期は、放射線宿酔や発熱、初期紅斑などがあり、照射後数時間後に現れます。
放射線宿酔とは、症状として吐き気、嘔吐、めまいなどがあります。簡単に言うと、車酔いみたいな感じです。
線量が多くなると、早く現れます。放射線治療でも引き起こされます。
潜伏期は、この期間は臓器、組織の細胞が寿命が尽きる期間でして、比較的無症状です。
発症期は、放射線障害が発症する時期になります。
回復期もしくは死亡は、回復するか死亡するかです。線量が少なければ、1ヶ月程度で回復期になります。人間の死亡は2.5Gyから起きます。
死亡する線量を受けた場合、延命ができたとしても、障害の回復に長い時間を要します。ほとんどの場合、死に至ります。
次から、急性放射線死についてみていきます。
まずは、先にまとめました。
骨髄死は2.5~10Gy、腸管死は10~50Gy、中枢神経死は50~100Gyで起こります。
次からそれぞれ詳しく見ていきます。
どのようにして、死に至るのか確認してください。
まずは骨髄死です。骨髄死は骨髄の造血幹細胞の細胞死による白血球の減少による抵抗力の低下、感染症と血小板減少による出血性傾向の増大です。
2.5~10Gyの被ばくによって起こります。
3~5Gy程度では被ばくした人の半数が死亡し、7~10Gy程度では、被ばくした人のほぼ全員が死亡します。
治療方法としては、骨髄移植があります。
ここで+αです。先ほど半数が死ぬ、全員死亡するといいました。ここで、半致死線量と全致死線量についてです。
半致死線量は言葉通り、半分が致死する線量のこと、全致死線量は全員が致死する線量のことです。
表記としては、黒板にあるように書きます。
半致死線量は「30日以内に50%が死亡」という意味です。これはヒト以外の個体に使われます。ヒトの場合は、「60日以内に50%が死亡」となります。
全致死線量は「60日以内に100%が死亡する」という意味になります。
ヒトの場合は観察期間が30日ではなく、60日になっています。ヒトの骨髄死はほかの動物に比べ長いことからと言われています。
個体の種類によって被ばく線量が異なります。
ヒトの場合、半致死線量は4Gy、全致死線量は8Gyとされています。もちろん被ばくしたヒトの状態によって線量は変化します。
試験では、ヒト以外の動物の半致死線量を問われます。問題演習の際に覚えて行ければいいと思います。
次は、腸管死についてです。
腸管死の原因は、小腸クリプト細胞が被ばくを受け細胞死すると、吸収上皮細胞が造られなくなり、元からあった上皮細胞がすべてはがれ落ちてしまうと、脱水症状、電解質平衡の失調、腸内細菌の感染が原因となって死に至ります。
被ばく線量は10~50Gyです。
放射線被ばく後、吸収上皮細胞が全てはがれ落ちるまでの時間は線量によらず一定です。
平均生存期間は10~20日間です。これは、放射線被ばく前から存在していた、吸収上皮細胞がすべてはがれ落ちるまでの期間となっています。
小腸の放射線影響を見た講義でも説明していますので、一緒に確認してみてください。
次は、中枢神経死です。
原因は、高線量被ばくによる、神経系の損傷です。
ここで、「神経系って放射線感受性低くない?死因にまでなるの?」っと疑問に思った方はいるのではないでしょうか。
神経細胞は感受性が低いです。高線量被ばくでも感受性は変わらず、低いままです。そのため、神経細胞自体が細胞死をするのではなく、脳・血管系の損傷により死亡します。
被ばく線量は、50Gy以上です。
被ばく線量が大きくなるほど、生存期間は短くなります。全身けいれんや、ショック等で被ばく後1~5日後に死亡します。
最後にですが、50Gy被ばくで骨髄死は起こらないのですか?と思いますが、もちろん骨髄も影響受けてますし、腸管も影響を受けています。
しかし、骨髄死や腸管死で死亡する前に、中枢神経死の影響の方がより早く現れるので、骨髄死や腸管死にはなりません。
最後にもう一度まとめです。
それぞれ、被ばく線量、生存期間を確認してください。
当然ですが、被ばくを受ける個体の状態によって線量は変化します。
これで、今回の講義は終わりです。お疲れ様でした。
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